【ブッダの神髄を伝える】

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2021/10/21 22:15


パナソニックの創業者、松下幸之助翁は、生涯を通じて「素直な心」を追求した。松下翁によれば、素直な心とは「寛容にして私心なき心、広く人の教えを受ける心、分を楽しむ心」。仏教でも、人格の成長に欠かせない項目の一つは、「素直に聞き入れる性格」(suvaca)。

人は、いつでも他人から教えてもらい、学んで成長する。教えてもらうことは人間の宿命。善き先輩のアドバイスを「素直に聞き入れる性格」がなければ、人格の成長は覚束ない。ところが、私たちは何かをするとき、いつでも「私は正しい」という先入観を持って行動している。遊びに耽っているときでさえ、その瞬間は正しいと思い込んでいる。わがままで、頑固で、他人の意見に耳を傾けなかったら、生きていけない。素直に聞き入れる性格は、成功を目指す人間に必須のもの。

そこで「『私が正しい』という生き方をしている」と、あえて意識化してみよう。普段そのような気持ちは無意識的で、はっきり自覚していない。それをあえて意識化することで、性格が直り、楽な生き方ができる。優しい人間になってしまう。自分の意見を話すときも、ちゃんと遠慮ができて、異論・反論に悩み苦しまない。「そういう意見もありますね」と受け止められる。「私が正しい」というスタンスで生きていることを自覚して、意識的に認めるだけ。いたって簡単だろう。

次に、自分の過ちを隠さないことに努めよう。もし間違いが見つかったら、すぐに認めて直すように努力する。自分の過ちを隠したくなるのは、自分は正しいと思っているからだ。「私は正しい」と思っているが、表立っては言わずにいる。しかし、過ちは隠す。これが私たちの性格。

成長する人間は、過ちを隠さない。誰も完璧ではない。私もあなたも、過ちを犯す。自分のミスを受け入れて「すみません。間違えました」と躊躇なく認められたら、人生は簡単になる。過ちを犯して、誰かに指摘されたら、「そうですね。間違いです」と、すぐに認める。相手から「では、こうしてください」と教えてもらったら、真面目にやってみる。そうやって、自分の性格をひとつずつ改良する道を歩んでいく。

素直(suvaca)の反意語は、「頑固」(dubbaca)。善き人のアドバイスに従わないこと、自分の間違いを認めないことだ。頑固な人間が成功しないのは、時代を超えた普遍の事実。ダンマパダは、ズバリ説く。

Yāvajīvampi ce bālo,
paṇḍitaṃ payirupāsati;
Na so dhammaṃ vijānāti,
dabbī sūparasaṃ yathā.

賢者に 生涯仕えても
愚者は 真理を知ることがない
いくたび汁をすくっても
匙はその味を知らぬように

(Dhp.64)

心に刻んでおこう。「素直に聞き入れる」とは、言われたとおりに機械のように動くことではない。責任感がなく、判断力がなく、理解力がなくて、他人に言われたとおりに行動する「ロボット人間」。そんな性格では役に立たない。仏陀は教える。
➊まず、他人の意見を「素直に」集中して聞く。
➋次に、意見の内容を吟味する。正しいかどうか、実行すれば幸福になるかどうか詳しく調べる。
➌幸福になると確信したら、実行する意欲を抱く。
➍そして精進する。
こういう理性的なプロセスが「素直に聞き入れる」ことの正体。操り人形のように、ロボット人間として生きる道ではない。

優柔不断な性格では、社会からの誘惑に負けてしまう。世間の次元を超える人格成長の道を歩むには、芯の強さが必要だ。欲は征服すべきもので、欲に征服されてはならない。自分のためにならず、他人のためにもならない行為には、何があっても手を染めない。そこは、むしろ頑固でいい。人格成長の道を歩むことには頑固でありつつ、善き人のアドバイスを聞き入れることには、いつでも素直でいよう。


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